この国の成り立ち (2) |
ーー増える囚人ーー |
前田晶子 |
1700年代のイギリスは、受刑者の急増に頭を悩ましていました。原因としては、 18世紀になってからの人口の増加、産業革命による都市部への人口集中、そして失業者の 増加、アメリカの独立戦争以後アメリカに囚人を送れなくなった、犯人の検証方法が進歩したため逮捕率が上昇、裁判所が絞首刑を避ける様になった(因みに 1700年代中期から1800年代初期にかけて犯罪者が死刑になる率は70%から16%に落ちている)、アイルランドのレジスタンスによる政治犯の増 加、廃船を利用した海上刑務所の失敗等が挙げられます。 |
特にその当時やり玉に上げられていたのは、廃船刑務所(PRISON HULK)でした。 当時は大航海時代、もう海には乗り出せなくなった古い船を利用してそれを入り江に浮 かべ刑務所としたのです。もし陸地に新しく刑務所を建てるとしたら年間50ポンドか かるのに対し、廃船刑務所は40ポンドで済みます。しかしこの刑務所大変過酷な場所 でした。水上なのでイギリスの寒く湿った気候の影響をもろに受ける囚人達は、すぐ 病気になりました。そして廃船は病気の温床となり、一般の人々に広がる危険性をは らんでいました。しかも政府は、あちこち手入れをしなければならない古い船の修理代さえも出し惜しみました |
資料をもとに廃船刑務所の囚人の生活を追って見ましょう。 14ポンド(6.3kg)の鉄の固まりが囚人の右足首にしっかりとはめられています。 泳いで逃げるのを防ぐためです。もっと重い鉄をつけられている囚人もいます。高々 13才の少年が、2重の足かせをはめられて船の中をはっています。大人でさえ1重の足かせなのに。 入 所から数ヶ月立つと囚人達は重りをはずされボートに乗せられ、労働にかりだされるのですが、この時には囚人の右足はひきつってしまってまとも には歩けません。ドックで働かされる囚人達は毎日足かせ手かせをはめられ、夜明け と共に廃船を出、薄暗くなってから戻ってきます。海軍の作業所で働く囚人達の1群 は、旅行者の観光スポットでもありました。この鎖集団の光景は、大人にとっても 子供にとっても効果的な戒めとなりました。こうして人々に見つめられる囚人達は、 自らの境遇をいっそうみじめなものと思ったことでしょう。 |