ドリームタイム(4)
―――神秘的存在者――― Valeria Nemes 訳 前田晶子ドリームタイムはアボリジニーの人々が持ち続けてきた信仰と文化を表現した物語の集大成と考えられています。さらに儀式によって規制された彼らの生活様式も明らかにしています。 ドリームタイムはアボリジニーの人々が実際に起こったと信じている物語なので、神話、または伝説と呼ぶのはあてはまらないでしょう。ドリームタイムという言い方は、近代人が後になって彼らが語り伝えてきた物語を指すのに用いた言葉です。 ドリームタイムの大部分は、アボリジニー達の土地や自然との関わりについて述べたものです。人間を創造した神秘的存在者(神、霊)は、生きていく掟も人々に授けました。部族の中でどうやって共存していくか、さらに自然界で生きていく掟でもありました。この霊的存在者への信仰がドリームタイムの観念です。これら霊的超能力者は地形の形成にもかかわっていました。 霊たちのあるものはオーストラリア中を旅をして回りました。ドリームタイムの中には彼らの旅と、その結果生じた地形の変化について述べているものがあります。旅をしていた霊は、時には一箇所に落ち着いてしまい、地形の一部となってしまうこともありました。例えばある霊は湖を作り、そこに住み着いてしまいました。ということは、大地の地形を見れば、そこには霊的存在者の足跡と行為が印された跡がたくさんあるということになります。このような印はいまだに信仰、集会の要となっています。 アボリジニーは耕作もせず、家畜も飼わなかったので、食べ物、休む場所、道具を作るのに必要な材料はすべて自然に頼っていました。そのため、彼らの信仰の中心は、大地と恵まれた物を尊重することでした。別の言い方をすると、自然と神秘的存在者が植物や動物、彼らが休むのに適した地形さえも調えてくれるのだと信じていた、ということです。 ここでまたフリンダーズ山脈付近のお話をします。 二人の兄弟がマラヴァディヌハ インビリ(チャンバー峡谷)と呼ばれる場所で狩りをしていました。エミュー(だちょうによく似たオーストラリアの飛べない鳥)を捕まえてから、また狩りを続け、休むことにしました。食事をするためエミューをさばいていますと、肉をねらってハエがたくさん集まってきたので、追い払うために火を炊きました。ところが熱い北からの風が火の粉を散らし、小枝に燃え移り山火事になってしまいました。火は草や潅木を燃やしながらどんどん広がりました。二人は谷の急な傾斜を上の方へと逃げて行きました。火に追われ崖の頂まで来てしまいました。火に追いつかれた瞬間、二人は空へ舞い上がって逃げました。そして彼らは輝く星となりました。サザンクロスの目印の二つの星です。星は兄弟の名前を取って、その地方のアボリジニーの言葉で、ウィルド マンダーヴィと呼ばれています。
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