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―――新総督――― |
前田晶子 |
初代総督となる人の役割を考えると、人選が難航したのもうなずけます。
自由移民なしで植民地を設立する事など今まで誰もやったことはなく、しかも囚人から、船員、兵士、
役人とその家族と全く異なる人々をとりまとめて、原住民と友好的に、わずか2年間の供給物資だけで、
無から始めて植民地を作り上げなければならないのです。
しかも、2万4千キロの長い航海を無事乗り越えなくてはなりません。 |
イギリス政府はこの新総督の給料として、年給1500ポンドを提示しました。
でもこの額は英連邦国植民地の総督としては安い方でした。
大蔵省の秘書官だった隣人の推薦を受けたキャプテン アーサー フィリップが任命されるまでに2ヶ月を要しました。 |
この人選は少なからぬ驚きを以って人々に受け止められました。
彼はすでに引退生活に入りかけており、年も48才。
南イギリスのハンプシャーで農業を始めていた少し神経質で照れ屋の海軍士官は、政府関係者の間でも余り知られてはいませんでした。
しかし彼は海軍仲間では、正直で誠実で有能な人物として評価されていた人物でした。
ニューサウスウェールズの総督の職は、給料も高くなく、重要な任地でもなく、他の軍人達には魅力ある職ではなかったようです。 |
政府は囚人を運ぶ船を6隻、物資を運ぶ船を3隻借りる契約を船主とかわし、防衛のために軍艦2隻も同行させることにしました。
総勢11隻の船団の総指揮官となったフィリップは、政府が準備している内容の点検を始めました。
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囚人の船は混みすぎていること、食料品の種類が病気を予防するには少なすぎること等を指摘し、
くり返し政府に改善要求の手紙を出しています。農作業の用具を増やして欲しい、パンの割り当てを多く、
食糧はもっと必要であり、職人や農夫の囚人を多くして欲しい、医療品と衣服がもっと必要、・・・という内容です。
しかし政府は全部の要求に応じてくれたわけではありませんでした。 |
真面目で物事に真剣に取り組む性格のアーサー フィリップは、人々の予想とは裏腹に新植民地の総督として最高の人物だったようです。
彼が農業を知っていることも大いに貢献しました。
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