ドリームタイム(5)
―――魔術師――― Valeria Nemes 訳 前田晶子アボリジニーの部族は小さなグループに分かれて孤立して住んでいましたので、いったん病気や自然災害が起きた場合には、大変もろい存在でした。そのためアボリジニーは自然の変動や猛威をとても重視していました。彼らは変動は霊的存在者の行為によって起こるものと信じていました。 部族には、人間の世界と霊の世界を行き来できる特別な力を持つと信じられた人がいました。普通、こういう人は魔女、魔法使い、魔術師または、シャーマンともいわれます。アボリジニーの言葉では、地方によって呼び方が変わります。中央部のグレート ビクトリアン デザートでは、ギンギンまたはマバンバと呼び、フリンダーズ山脈では、ユラ ウルンギと呼びます。ユラとは人間の意味で、ウルンギとは霊的存在者という意味です。彼らは特別な知識を持っていると信じられていて、部族のほかの人々とは区別されていました。通常このような知識は、年寄りの魔術師から習わなければならないものでした。 このような人は悪魔の仕業から、時には他の魔術師から部族の人達を守ります。病気や事故から守る役目も果たしました。さらに、病気や事故の原因の説明もしました。 昔の部族の人々は物事が不運や不注意によって起こってしまったと は考えませんでした。たとえば、事故が起きたとします。ワニに食べられたとか、インフルエンザのような病気で死んだというような時、彼らはドリームタイムのお話のような因果関係の説明が必要なのです。どうしてこの人にこの時こんなことが起きたのかと。したがって、魔術師の仕事は病気の治療、事故や惨事が起きた時の処置、そしてその原因の説明にまでおよびます。 呼吸が苦しくなった病気の子供がどのように直ったか、というお話を紹介してみましょう。 子供が病気になり、呼吸が困難になりました。ヴィルヅ ウルンギというワシの悪霊が子供の霊を持って行ってしまったからです。ワシのような泣き声をあげて子供が泣いているので、両親はこれはワシの悪霊の仕業だと分かりました。この悪霊は子供の霊を持っていって自分の巣へ持ち帰り食べてしまうと言われています。両親は魔術師を呼びました。彼は皆に火を消して寝るように、そして静かにしているよう命じました。魔術師は夢の中でワシの悪霊の後をつけ巣まで行き、まさにワシが子供の体を海に捨てようとした時、子供をつかみ取りました。この瞬間病気の子供は正常な息にもどりました。
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