ドリームタイム(8)
―――火を使うようになった訳は?――― Valeria Nemes 訳 前田晶子オーストラリアンアボリジニーは半遊牧の民なので、火を絶やさずにいることは生活の必須条件でした。いろいろな火のおこし方も知っていなければなりませんでした。火で料理をしたり、寒い夜に体を温めたり、又、明かりとしても使いました。 堅さの異なる2種類の木を勢いよくこすり合わせ、摩擦熱を利用して火をおこすのが、最も一般的でした。具体的には、堅い方の木にくぼみを作り、やわらかい木の棒をそこでくるくると早く回します。すると、削られていく表面には熱い木の粉ができていきます。枯れ草、鳥の羽、動物の毛皮などの火口(ほくち)を近づけ火をおこします。 戦い用、狩り用の盾にくぼみを作っておくこともします。狩り用の堅い投げ棒をやわらかい木の盾にこすり付けて火をおこします。こうして移動している時などは、手持ちの物を利用して簡単に火をおこすのです。遊牧の民の生活の知恵です。 火打石を使う時もあります。火打石を鉄鉱石に打ち付けて発した火花を、用意しておいた火口(ほくち)の上に落として火をおこします、 火を使って何をするかによって、燃やす物を使い分けて、低温の火、高温の火をおこします。料理用には堅い木、夜 の儀式の時の明かりには乾ききった枝を使います。 狩りの時にも、火を使って動物を巣から追い出し、逃げ出そうとするところを捕まえます。 いったん火をおこしたら、くすぶっている枝を火種としてよく持ち歩きました。雨の日には火種をぬらさないように囲い、次の居住地に着いたら、洞穴や木の穴の中にしまって置きます。火が必要になると取り出して、振り回して又火をおこします。 次に挙げるのは、ドリームタイムの中にたくさん出てくる「どうして人は火を使うようになったか」というお話のうちの一つです。 大昔は、マーという頭に赤い羽根を持つ「コッカトゥー男」だけが火のおこし方を知っていました。人々はマーをうらやましく思っていました。ある日「小鳥男」をマーの所へこっそり行かせて、どうやって火をおこすのか盗み見させることにしました。「小鳥男」はマーが頭の羽根を抜いて火をおこし、肉を料理し始めるのを見ました。マーがよそ見をしている間に、「小鳥男」はグラストリィーの茎を火の中に突っ込み、火がついたところでそれをつかんで家に逃げ帰りました。グラストリィーの小さな火は大きな炎となって燃え上がりました。マーはそれを見ると大変怒って、火を取り返しにやって来ました。しかし、アボリジニー達は「小鳥男」をかくまって、「ぎゃーぎゃー」と鳴きたてる「コッカトゥー男」と戦いはじめました。そして戦っている間に皆鳥になってしまったそうです。 こいうわけで、コッカトゥーは頭に火種の赤い羽根を持ち、「小鳥男」は人々に火をもたらすという大手柄を立てた鳥という意味で、胸の赤いロビンになったということです。 *火口 火をおこす時に用いる火のつきやすい物の総称。
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