この国の成り立ち (8) ―――役に立たない囚人―――
前田晶子
無償の労働力として連れてきた囚人でしたが、政府の思惑とは逆に囚人は植民地作りのお荷物となってきました。本国の牢屋、船中での扱いですっかり体が弱ってしまっている囚人達は、力仕事をさせても用をなさず、ほとんどは怠け者で与えられた仕事を嫌がりさえしました。フィリップはシドニー卿に宛てた手紙の中でこう述べています。「囚人の多くは子供の頃から怠惰の中で育ってきているので、ほっておかれたら飢え死にしてしまう人達だ。年寄りで病気持ちの囚人は50人を超え、彼らはどんな簡単な仕事もできない。」(Dreamtime
To Nationより)
さらに彼は本国への手紙でこう訴えています。「不道徳と怠惰に染まって大きくなった人を働かせるのはなんと難しいことか、やさしくしても厳しくしても、なんの効果もない。重労働をしたことがなく育った人は罰を受けても労働するのを嫌がる。監視の目がなければすぐ怠ける。こんな状態なので、送ってくる囚人の数は極力少なくして欲しい。ただし手に職を持っている囚人は歓迎する。大工、石工夫、煉瓦職人、農夫など。もし50人の農夫が家族を連れて来てくれたら、囚人千人以上の働きをしてくれるだろう。」(Dreamtime
To Nationより)
この要求がかなえられたかどうかはわかりません。ほかの資料によると、772人の囚人のうち、大工は12人、そして何か仕事の技を身につけている囚人は一握りだったといいます。元々流刑が目的で始まった植民地ですから、当然の成り行きと言えます。家族連れの農民となれば、もはや囚人ではなく自由移民に頼らざるをえないでしょう。
囚人は働かないだけではなく、食べ物を盗み、お酒を飲んで暴れました。さらにはアボリジニーの部落に忍び込んで盗みをしたり、女の人に乱暴したりと問題を起こしました。フィリップは囚人をアボリジニーから遠ざけました。食べ物を盗む者は絞首刑にされました。
フィリップは、囚人同士の結婚を奨励し、狭いながらも囚人一人一人に土地を与え、1日のノルマの仕事が早く終われば自分の土地で自分のために作物を育てることを許しました。彼は日記に、「将来に希望を持たせれば囚人は自由の身になった時、真面目な入植者になれるはず。」と書いています。しかし、フィリップの意向にもかかわらず、囚人の悪行は後を立たず、見せしめの罰、絞首刑は衆人看視の中で行われました。
- 主な参考図書 :
Dreamtime To Nation, by Lawrence Eshuys Guest (Macmillan Australia)
Investigating Our Past, by Sheena Coupe
(Longman Cheshire)
その他の参考資料は連載の最後にまとめて表示します。
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