この国の成り立ち (9) ―――アボリジニーと友好関係を築く―――
前田晶子
フィリップは国を出る時、新しい植民地を作るにあたっての方針をイギリス政府から言い渡されてきていました。その基本方針は、アボリジニーと友好関係を築くように、そしてアボリジニーの生活を干渉しないようにというものでした。
この方針にそって統治を始めたわけですが、彼自身当初からアボリジニーに深く感銘していたので、彼らとの関係は始めのうちは平和的でした。彼はアボリジニーの男たちの堂々とした態度、男らしさに大変感動したので、ある入り江の名前をマンリー(Manly)と名づけたほどでした。今のマンリービーチです。
フィリップが気をつける必要があったのは逆に自分たちの囚人の方でした。アボリジニーの部落に忍び込んで、食べ物を盗む、女、子供に乱暴する、海辺でボートを盗む、さらには狩りの道具や武器を盗んでくるといったように、アボリジニーの生活を脅かしはじめました。ある時、囚人2人の死体が発見されました。アボリジニーに殺されたようでしたが、フィリップはこれに対して何の手も下さず黙っていました。数日前に囚人がボートを盗み、一人のアボリジニーを殺しているのを知っていたからです。
こんなわけで、はじめのうちは突然やってきた見知らぬ人々に、好意的に食べ物を分けて上げたりもしていたアボリジニー達もだんだん警戒心を強めていきました。武装して襲ってくるようにもなりました。彼らはこの人達はもはやただの訪問者ではなく、自分たちの土地にずっと居座るのだと気付きはじめました。その結果貴重な食料は侵される、大切な女、子供は危害に遭うという、彼らが今まで経験したこともないようなことが起こり始めたのでした。
日に日に好戦的になってくるアボリジニーでしたが、フィリップは依然友好的態度を通していました。肩に傷を負うことがあってもお互いの行き違いのためと問題にしませんでした。彼はアボリジニーの習慣を理解しようとし、アボリジニー達にはイギリスのやり方を理解してもらうよう努めました。
- 主な参考図書 :
Dreamtime To Nation, by Lawrence Eshuys Guest (Macmillan Australia)
Investigating Our Past, by Sheena Coupe
(Longman Cheshire)
その他の参考資料は連載の最後にまとめて表示します。
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