この国の成り立ち (10)
―――フィリップ去る―――
前田晶子
1792年フィリップは激しい胃痛を起こし、治療のため本国イギリスへ帰ることを余儀なくされました。一時的な帰国ということでしたが、再びオーストラリアに戻ることはありませんでした。病気回復後、フランスと戦争が起こりフィリップは元帥として海軍に戻りました。
5年間の彼の業績は計り知れないものがあります。本国を遠く離れた囚人だけの植民地として、曲がりなりにも自給自足の基礎を作り上げました。残された公文書、手紙、日記から彼の総督としての指導力、植民地を織り成す全く異質の人々、囚人、兵隊、アボリジニーへの心ある配慮が読み取れます。初代総督としてアーサー フィリップを得たことはイギリスにとっても、オーストラリアにとっても幸いでした。彼のおかげで今日のオーストラリアがあると言っても過言ではありません。彼の偉業をたたえて、ヴィクトリア州にあるペンギン観光で有名な島はフィリップ島と名づけられました。
イギリス政府は早急に次の総督を任命しなければなりませんでした。フィリップがオーストラリアを離れるにあたって、当座の策として政府はニューサウスウエールズ軍の指揮官であるグロース少佐を総督代理に任命しました。囚人の自立を奨励したフィリップと違って、グロースは囚人は植民地の将来を担って働く気などさらさらなく、本国へ帰りたがっているだけと判断しました。軍と自由移民(フィリップの時代から少しずつ来始めている)が結託すれば必ずや植民地は発展すると信じていました。グロースのこの考え方は後々大きな問題を残すことになりました。
・主な参考図書
Dreamtime
To Nation by Lawrence Eshuys Guest (
MacmillanAustralia)
Investigating Our Past by
Sheena Coupe (Longman
Cheshire)
A Country Grows Up by
J.J.Grady (Cassell Australia)
その他の参考資料は連載の最後にまとめて表示します。
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