10 アルコール スピアーズ洋子
オーストラリア人はビールなどのアルコール類が大好きなようです。しかもかなり強く、たくさん飲みます。法的には16歳から飲酒が可能なので強くなるはずです。飲酒は文化の一つ、その国によって材料も、作り方も、飲み方も違います。ここではオーストラリア流のアルコール文化、マナーについて。
Hotel
オーストラリアではpub のことを hotel といいます。宿泊が目的の hotel も全く同じ hotel というので混乱しそうですが、前後のいきさつで間違えるということはまずありません。昔のhotel は、グランドフロアー(1階)に酒類を出すところと食事を出すところがあり、1階(日本流では2階)に宿泊するところがありました。それがだんだんと、食事を取る所と、酒類を飲む所と、宿泊する所が別になっていきました。現在、宿泊を主として、従来のように飲んで食事ができる所をhotel といいますが、宿泊は全くなくなり、酒類と食事を提供するだけのパブと同じになった所も hotel と呼んでいます。都会では、飲む、食べる、泊まるが分業している場合がほとんどですが、現在でもオーストラリアの地方にいくと、パブとホテルが兼用になっているところがまだたくさん残っています。
A氏のオーストラリア体験談
A氏がシドニーに着任して間もない頃のことです。シドニーに来る前には、シンガポール、香港、マニラに滞在したこともあり、アメリカにも何度か出張したことがあったので、英語には自信がありました。解かりにくいといわれたオーストラリアアクセントも、初めからその覚悟でいれば、それほど聞きづらいということもなく、職場の連中はわかりやすい英語で話してくれるし、自分の英語も理解してくれます。自信がついたA氏は一人でビールを飲みに行きました。
シドニーのある Hotel のドアを押して入って行くと、話し声と音楽と煙草の煙で沸き返っていました。A氏はカウンターへ行ってビールを注文しました。「ア グラス オブ ビアー プリーズ」と言うと、相手は「ミディ オア スクーナー」と大声で聞き返しました。騒がしいので相手が聞き取れなかったのだと思い、A氏はもう一度大声で「ア グラス オブ ビアー プリーズ」と叫びました。すると相手も更に大声で「ミディ オア スクーナー」と怒鳴り返してきました。A氏が今度は「ジャスト ビアー」と言うと、相手はあきれ顔で大小のグラスをA氏の前に置いて、小さい方を指してミディ、大きい方を指してスクーナーと教えてくれた、ということです。
その後A氏は出張でメルボルンに行きました。またビールを飲みに行って、「ミディ プリーズ」と注文すると、今度は大声で「グラス オア ポット」と聞き返されました。
A氏がまたもとのように英語の自信を取り戻すのに、しばらく時間がかかった、ということです。
しかしこれはA 氏の英語力とはあまり関係のないことなのです。オーストラリアではグラスのサイズの呼び名が各州で違っているのです。
それでは次に各州でのグラスの名称と容積を書いておきましょう。
州名 容積 名称
NSW 285ml middy ミディ
425ml schooner スクーナー
575ml pint パイント
Victoria 200ml glass グラス
285ml pot ポット
Queensland 285ml pot(普通この他のサイズは使わない。)
South Australia 200ml butcher ブチャー
285ml schooner
425ml pit
West Australia 285ml middy (場合によって200ml が middy と呼ばれる場合もある。)
425ml schooner
Tasmania 225ml eight (eight ounce の略)
285ml ten (ten ounces の略)
Northern Territory 200ml seven (seven ounces の略)
285ml handle (285ml のグラスにはたいがい取っ手が付いているので。)
425ml schooner
ついでにビンと缶ビールのサイズも記しておきましょう。
小ビン 375ml は stubbie または stubby と綴る。
大ビン 750ml はlarge。
缶ビールは 普通は375ml 。
ただし Northern Territory には ダーウインスタビーというのがあって、これは2.25 litres 入りです。
Shout
Shout の本来の意味は、叫ぶ、大声を出すということですが、オーストラリアでは別な使い方があります。
オーストラリアではホテル(パブ)で飲む場合、飲み物と交換でその都度支払いをします。しかし友だちや職場の仲間、知り合いなどと飲みに行く時、各自が自分の飲み物の支払いをそれぞれするということは、まずありません。初めに誰かが、みんなの飲み物をオーダーして払います。みんなが最初のグラスを飲み終えた頃を見計らって、別の誰かが、次のオーダーをして支払いもします。このようにしておごりあって飲むのが習慣になっています。
Shout は「次は僕が」「今度は私が」と、おごることです。”It’s my turn to pay” という代わりに “It’s my shout” といいます。話に夢中になっていて気づかず、shout しないでいると、誰かが “whose shout is it?”
と言って催促します。中には財布の紐の固い人がいて、なかなかshout をしない人もいます。それまで誰かの shout でさんざん飲んでいて、自分の番の直前でトイレに行ったり、帰ってしまったりする人もたまにいるようです。
Shout を避けることを to duck the shout または dodge his shout、dodge her shout といいます。ケチで奢りたがらない人のことは、”He managed to duck his shout” とか、”He has short arms and
deep pockets. He always dodges his shout.” と言ったりします。
“It’s my shout” はビールを飲む時に限らず、レストランなどに行く場合にも使いますが、レストランの場合は、奢り奢られ、というよりも割り勘が一般的です。
“It’s my shout” は男性だけでなく女性が使っても一向にかまいません。男女平等の時代ですから、女性も shout した方がいいでしょう。
Grog, Plonk, Dead Marines
Grog, Plonk, Dead Marines いづれもお酒に関係のある言葉です。
Grog は酒類一般の総称としてしばしば使われています。
Plonk はワインのスラング。Plonk については次に詳しく説明します。
Dead Marines は空きビンのこと。由来は海軍からとのことです。海軍のパーティで空になってテーブルや床に横たわっているビンは、なんの役にも立たず死んだも同然ということで、誰かが dead marines と言ったのが、そもそもの始まり、ということです。
Plonk
オーストラリア人はビールやワインを実によく飲みます。体質的にアルコールに強いからか、ビジネスランチなどでもワインをグラスに1、2杯は軽く飲んでいます。普通の家庭でもワインセラーのある家が少なくありません。またディナーパーティに招かれた時は、必ずワインを持参します。自分たちがディナーで飲む分と、ホストへのプレゼントとしてもう1本持っていく人もいます。
さて、plonk ですが、ワインのスラングで由来は第1次世界大戦。ヨーロッパ戦線に送られたオーストラリア兵の間で使われ、それが帰国した兵士から伝わり、広まって一般化したということです。
当時フランスでドイツと戦っていたオーストラリア兵にとって、ワインを飲むのは初めての体験でした。彼らはビールの変わりにワインを飲み、フランス語の vin blanc(白ワイン)、vin rouge(赤ワイン)という言葉はたちまちオーストラリアの兵隊の間に広まっていきました。けれどもフランス語を正しく発音するのは難しくめんどうなことでした。特に白ワインの vin blanc は言いにくいので、兵隊たちの間で plonk と言われるようになり、後に白ワインだけでなくワイン全体のスラングとなった、ということです。