Yukari Shuppan
オーストラリア文化一般情報

2002年~2008年にユーカリのウェブサイトに掲載された記事を項目別に収録。
前へ 次へ
 
ドリームタイム(11)

              ―――ブッシュファイヤー(山火事)―――

 

Valeria Nemes       訳 前田晶子

アボリジニーのように自然の中で暮らしている人々は、皆、火の大切さをよく知っていました。火を使えば食べ物をおいしく食べることができたり、寒さから身を守ることができると知っていたと同時に、ブッシュファイヤーの恐ろしさもよく知っていました。

堅さの違う木をこすり合わせて、または火打石を使って火をおこし、種火の枝を野宿から野宿へ持ち運んだりして、火を大切に扱っていました。

アボリジニーは火の燃え方や広がり方をよく観察し、災いのはずのブッシュファイヤーが彼らに有利になることも知っていました。

アボリジニーは次のことに気づいていました。ある植物や木にとっては、ブッシュファイヤーの火で焼かれることが、子孫を残す手段であるということです。堅い殻に閉じ込められている種は殻が焼けて割れて初めて外にこぼれ落ち、芽を出すことができるのです。またブッシュには下草が茂っていますが、乾燥したオーストラリア大陸で、からからに乾いた下草は薪を抱え込んでいるようなものです。いったん火がつくと瞬く間に燃え広がります。先回りしてこの下草を焼き払っておくことは大きな山火事を防ぐ手段になります。現在、オーストラリアの田舎では防火帯(FIRE BREAKS)として広く用いられている方法です。

もちろんアボリジニーのこの下草に火をつける習慣は、後からやって来た白人達に誤解されました。本国イギリスへは、アボリジニーはわざと火をつけて問題を起こして困ると報告されました。しかし、白人達は先住民であるアボリジニーに見習い、彼らが長い間かけてオーストラリアの大自然から学んできた知識を受け入れて、彼らと同じ方法取ってこそブッシュファイヤーを防ぐことができると学ばなければいけなかったのです。

今年は、ビクトリア州、ニューサウスウエェールズ州、そして首都のキャンベラで悲惨なブッシュファイヤーが発生しました。新聞記事を読みますと、消防士達は発生したブッシュファイヤーが消火できないとわかるとすぐに退却し、最前線の下草に火をつけて、それ以上広がるのを防ごうとしました。

ドリームタイムのお話の中には、火にまつわるお話がたくさんあります。これもアボリジニーにとって、火は大変重要なものだったからです。これからするお話は火の「滅ぼす」という側面に焦点をあてたお話ですが、いやしの火、何かを伝えるための火、死の概念を完結する役を担う火など、火に関するお話はほかにもたくさんあります。

火の精霊が滅ぼした娘

ある部族にきれいな娘がおりました。自分がきれいだと知っていたので大変うぬぼれていました。若い男達が彼女を獲得しようとやって来ると、娘は笑ってこう言いました。「私を奥さんにしたければ、これから私が言うことをやってごらんなさい」山をあっちからこっちへ動かせ、とか、川の流れを変えろとかいうものでした。多くの若者がそのために命を落としました。部族の人々はしだいに憂鬱になってきました。若者がどんどん死んでいくのは困るのです。

とうとうある晩、魔術師の1人が火の精霊の所へ出かけていきました。そして、娘を追い払ってくださいと頼みました。翌日の晩、若い男がやってきて、娘に奥さんになって欲しいと頼みました。娘は「私を踊らせてくれたらね。」と答えました。「いいでしょう。」と若者は言いました。

人々は大きな輪になって座り、見ていました。若者は小さな火をおこしました。炎は娘の前で踊り始めました。娘は炎の踊りが気に入り、いっしょに踊り始めました。炎は増えていきました。娘は炎をよけるためにあちこち飛び跳ねなければなりませんでした。疲れて休みたくなっても、次から次へと炎は彼女を追いかけるので、彼女はもっともっと飛び跳ねなければなりませんでした。娘はどんどん高く飛び上がりました。ついにとても高く飛んだので、空まで行ってしまいました。

人々は空にひときわ強く輝いている星を見ると、それはあのダンスをしている娘だと言っているそうです。

 

* この記事の無断転載、借用は著作権法により禁じられています。

(私的な学習、リサーチ、評論、書評のための利用は例外とされています。)

 


 メルボルン:ジャパンブックセンター
シドニー:紀伊国屋書店
両書店で購入できます。

前へ 次へ