Yukari Shuppan
オーストラリア文化一般情報

2002年~2008年にユーカリのウェブサイトに掲載された記事を項目別に収録。
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インタビュー (15)    ビル ヒューズ(Bill  Hughes)
 
この欄では、有名、無名、国籍を問わず、ユーカリ編集部で「この人」を、と思った人を紹介していきます。今月のこの人は、元消防士さん、今はセカンドハンドのお店を営むビルさんをお訪ねして、消防士時代のお話を伺いました。
 
* ビルさんは元消防士さんと聞きましたが、何年くらい働いてらしたのですか?

27年間プロの消防士でした。28歳の時から始めて、14年前55歳で退職しました。消防士の前はコックをやってました。見習いで5年ホテルで働いてましたけど、給料は安いし、いつ首になるかわからないし、生活の安定のために消防士になりました。給料もよかったのでね。結婚して小さい子供が2人いた ので、学校にも行かせなきゃいけないし、お金が必要でした。


* 今年はブッシュファイヤー(山火事)がすごかったですが、ビルさんも昔、消火に出かけていきましたか。

私はシティの消防士でしたから、行きませんでした。ブッシュファイヤーの場合の消防士はボランティアですよ。田舎の消防士は皆ボランティア、シティの消防士はプロです。でも2回行ったことがありますよ。1983年のアッシュ ウエンズデーの時にダンデノンへ行きました。

消防士の仕事は火事のない時は何をしているのですか。

結構忙しいですよ。消防車、消火器具の整備、点検、シティのビルディングを回って安全を確かめたりと、座って火事を待ってるだけじゃないですよ。それに私達は交通事故や炭鉱の事故にも出かけて行きます。飛び降り自殺しようとしている人をなだめて押さえ込んだり、とにかく、何か事が起こったら飛んで行きます。
 
*27年間働いている間には、ずいぶんいろいろ変化があったと思うのですが、どうですか。

そうね、まずトレーニングですけどね、私が始めた時は6週間で、もう仕事を始めました。もちろん初めのうちは人がやっているのを見ているだけなのですが。今は3ヶ月のトレーニングです。それに学校も出ていなくてはいけません。今だったら私は消防士にはなれませんね。ユニフォームは昔から毛のものです。羊毛は燃えませんからね。ずいぶんスマートになりましたが、重さは大して変わりません。厚くて重たくて、汗びっしょりですよ。ヘルメットも頑丈で重くなって、もっと安全になりました。でもね、やっぱり火事は水とホースで消すものですよ。これしかないです。
 
* お仕事とは言え、いつも火事現場、事故現場など、修羅場を目の当たりにしていて、ストレスはたまりませんでしたか。

慣れますよ。死んだ人には何にも感じません。これはもちろん他人というか全く知らない人だからですが。少しでも知ってる人だったら別です。でも何といっても最悪なのは子供ですね。子供はかわいそうです。たとえば、4歳の子が燃えてる家の中にいて、お母さんが泣き叫んでいる。探しに家の中に入って行きますが、こういう時はつらいです。子供はたいてい怖がって、ベッドの下や戸棚に隠れていて助かる時もありますが。
こんなこともありました。交通事故で後ろに乗っていた10歳くらいの子が片目をえぐりとられてしまいました。おじいちゃんが運転していて、おばあちゃんとお母さんがいっしょでした。救急車の人が鼻から管を入れて痛み止めの薬を指したので、痛くはないのですが、盛んに、ない目の所に手を持って行くんです。
またこんなこともありました。雨の降る日、女性が通りを歩いていたら、ある家の玄関の下から火が出ているのを見つけ、すぐ消防署へ電話しました。その人は感心にもタオルで玄関の戸の下を塞ぎました。我々が中に入ってみると、青年(18歳)がガソリンをかぶって、火をつけお風呂の中に座り、シャワーの栓をひねっていました。水に流されて火のついたガソリンが家の外まで来ていたのです。もちろん青年は死にました。発見した女性は大変なショックでた。18歳でしたけど、かわいそうに自殺しようとまでしました。
本当のことを言うと、慣れるとは言いましたが、私もひどい交通事故の仕事の後、精神的に参ってしまって、一時カウンセリングをうけたことがあります。すぐ良くなってもう大丈夫ですけど。
 
*危険な目にたくさん会われたと思いますが、怪我などはどうですか。
幸い小さな怪我だけでした。危ない目にはずいぶん会いました。火事の家に入る時、怖いのは、柱が燃えて支えがなくなり、壁や天井が崩れて来ることです。金属の柱だったら、溶けて伸びてしまって崩れてきます。ですから、壁のそばや天井の下に立ったらだめです。それから天井にもホースの水をかけたらだめです。床が抜けて物がどっと落ちてきます。それから、煙でなにも見えない真っ暗な部屋に入った時は、床の端を手探りで伝って出口を見つけます。そうしないとぐるぐる回りで外へ出られません。それと、手の甲で探します。そうしないと、電気のコードでもつかんだら感電死してしまいます。
 
*ほかにはどんなことがありましたか。

ある時、シティの大きな楽器屋さんが火事になって、多分放火だったのですが、エレベーターを伝って火が回り、床が崩れて大きな重いピアノが上から落ちてきました。これもまた放火ですが、レストランで、若い男が何と風船にガスを詰めてふくらまして、いくつもふわふわ浮かべて、それに火を付けたんですよ。警察や私達が行った時、まだその風船が浮かんでて怖かったですよ。その他、保険金目当ての放火も税金年度末になると増えます。ホテルの火事も大変です。ホテルは豪華な家具がたくさんあるでしょう。消火の水の被害から守るために、家具にシートをかぶせます。火事の時の水の被害は100万ドルにもなる時があります。ポンプで水をくみ出す時もあります。あまりないですが、船の火事も怖いです。私は2回経験しました。波止場で火事になった船が近づいてくるのを待っているんです。水は海水を使います。飛び込むと船底は真っ暗で煙でいっぱいで、ずごい熱さです。暗いのが怖い人はだめですね。私は暗いのは平気ですけど。 

* 火事の現場にはどのくらいで到着するものなのですか。

警報器が鳴ると、40秒で仕度して飛び出します。どこどこの何番地と無線が知らせてくれます。だいたい4分くらいで着くんですが、今か今かと待ってる身にとってはすごく長く感じるのですね。ある時、子供が火事の家の中に閉じ込められていて、お父さんがじりじりして外で待っていて、到着した消防士に遅いと怒って殴りかかりました。消防士はちっとも悪くないんですが。

* 消防士さん達は若い人が多いですか。

そう、だいたい若いですね。21歳くらいから、60歳超えても働いている人がいますよ。私は55歳できっぱりと辞めました。昼のシフト2日、夜のシフト2日、そして休みが4日というのが私達の仕事です。夜の仕事がきつくなってきて、もう出たくないと思うようになったのでこれで限度と、前からも少しやっていたガーデニングの仕事に変えました。1年くらいして、昔から骨董品が好きなので、自分でがらくたを買い集めてきて、セカンドハンドの店を開きました。私は結構商売上手なんですよ。たとえば、この今、回しているテープレコーダね、100ドルくらいはしたでしょうが、買うとしたら、私は12ドル以上は払いませんよ。そして25ドルで売りますね。

 
*若者が消防士になりたいけれど・・・と相談にきたら、何と答えますか。

人助けの立派な仕事だからと、もちろん勧めます。体が強くないとだめです。それとやはり勇敢でないとね。私は暗い所でも、誰もいない広い所にぽつんと一人置かれても平気です。今は女の警官、消防士もいますが、私はこういう仕事はやはり男の仕事と思います。飛び降り自殺しようとした男を婦人警官が押さえ切れなくて、死なせてしまったことがありました。いくら体格がいい女でも、男にはかないません。

 

* 最後に今年のキャンベラの火事について、警報が遅かったと批判もされていますがどう思いますか。
 
ブッシュファイヤーは普通の町の火事よりずっと怖いです。建物の火事は外に出れば、逃げられますが、ブッシュファイヤーの火は時速160km以上で燃え広がります。それに、ユーカリの木は油があるので、離れている木がいきなり燃え出します。どうしようもなかったと思います。100人の消防士が出動しても家一軒助けられない時もあります。誰も責めることはできません。

* 今日はお仕事の合間を縫ってお話していただいて、ありがとうございました。



インタビューアー    前田晶子

ビルさんのお店  WOODPAK  ANTIQUES
                                    77   WHITEHORSE  ROAD   BALWYN
                                    OPEN      WED  TO  SUN      10AM  TO  5:30PM
                                     PHONE   9817  6768
                                      www.citysearch.com.au        

         

              


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