ドリームタイム(19)
Valeria Nemes 訳 前田晶子 オーストラリア大陸に白人がやって来て以来、ヨーロッパ人とアボリジニー部族との関係はむずかしい問題でした。ヨーロッパ人は、自分達の文化が一番と思っていて、他の文化の成り立ちや伝統に価値を見つけることができませんでした。特に、物質的でない霊的な世界を背景にした文化(服も着なければ、家も持たず、書き付ける文字も持たない。)は考えられもしませんでした。アボリジニーはといえば、全く他の文化にさらされたことがなく、白人達が何たるかさえも分かりませんでした。ドリームタイムに生きていたアボリジニーは、白人に出会ってどんなにかびっくりし、怖かったことでしょう。そして白人はこのことが分かっていなかったので、アボリジニーの反応にさらに混乱してしまいました。 近代歴史学者のインガ クレンディンネン(
Inga Clendinnen ) が書いた本から、少し引用してみましょう。この本の中で、彼女は双方が最初に会った時の様子を両方の立場に立って読者に説明しようとしています。 クレンディンネンはフランス科学観測隊の報告書に基づいて、話を進めていきます。 フランス人達は、女が泣き止むのを待ちながら、3メートルほど離れましたが、まだ砂に顔を伏せたままでした。一回顔を上げて彼らを見たので、近づいて彼女を起こし、支えて観察しました。彼女はまだ立とうとしなかったので、砂の上に仰向けに寝かせました。 ここで観測隊のリーダーの言葉を引用しましょう。 「私は女が妊娠しているのに気づいた。だから逃げられなかったんだろう。女ははっきりした顔立ちの小柄な人種だった。身に着けているものといえば、古い皮袋をさげているだけだった。その中にはランの根っこのような小さな玉ねぎがいくつか入っていた。死んだようにじっとしていたので、彼女をおいて我々は30歩ほど離れた。すると、よつんばいなって、そっと茂みの中に逃げて行った。我々の上げたプレゼントは置きっ放しだった。彼女の持ち物の棒も残していった。」 クレンディンネンの説明は続きます。 確かにこの報告は、事実を正直に述べています。フランス観測隊の人たちは自分達は正しくふるまって、女に何の危害も与えていないと信じています。泣き止むまで待っていたし、プレゼントもあげた、触ったのは科学的観測の必要性があってしただけで、自分達は仕事をしただけだ、痛い思いはさせていない、というのが彼らの言い分です。 はたしてそうでしょうか。彼らはそう思っただけではないでしょうか。今度は女の立場から、事実を見てみましょう。女は取り囲まれました。恐怖から体は強ばってしまいました。見知らぬ人達の一人は、彼の指を無理やり口の中に突っ込みました。その時女は顔を伏せていたので、彼は女の頭に触って横を向かせてから指を突っ込んだに違いありません。それから、起き上がらせてじっと見つめ、皮袋を引っ張ってみたりもしました。そして、寝かせてさらに見つめて、離れていきました。 女はその後どうなったと思いますか? 続きは来月お話しましょう。
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