ワイン入門(21) 木村靖のワイン講座
オーストラリアの赤ワインの醸造
汚染のない自然環境の下で、葡萄の栽培を有機的に行い、ヨーロッパの各ワイン産地に古くから伝わる醸造法を基本に、先進農業国らしく、新しい栽培と醸造技術を盛んに取り入れて、衛生的なワインを産出。その上、値段も手ごろというのがオーストラリアのワインである。
現在(1995年現在)、オーストラリアが生産する白赤ワインの割合は7対3。オーストラリアで白ワインが赤ワインの生産量を超えたのは、発酵技術が進み、新鮮な風味のある白ワインが生産されるようになった1970年代中頃のことである。それ以前は、シェリーやポートなどの酒精強化ワインの消費が最も多く、その次に好まれていたのが赤ワインである。
オーストラリアで酒精強化と赤ワインが多く産出されていた理由は、
(1)昔からこの種のワインを好む英国に多く輸出されていた。
(2)温暖な気候によく適応する黒葡萄は、両種ワインの原料となる。
(3)白ワインに比べると長期の保存ができ、醸造法も比較的かんたんである。
ということが挙げられる。
赤ワインが白ワインと大きく異なる点は、白ワインが緑色か黄色みがかった葡萄から造られるのに対し、黒葡萄から造られることである。白ワインは辛口から甘口、熟成にオーク樽を使用するものとしないタイプに分けられるが、赤ワインは辛口が多く、そのほとんどは樽で熟成され、そのタイプの違いは、色の濃さや渋味の強さによって分けられる。また、白ワインは果皮を圧搾してから発酵させるが、赤ワインは発酵が終わってから果皮を圧搾する。
1.収穫 (vintage)
オーストラリアの葡萄の収穫は、北半球より半年早い1月から5月頃まで行われ、通常、赤品種は収穫期の後半にかけて成熟する。摘み取りは手作業か機会で行い、果実をワイナリーに運ぶ。
2.破砕 (crushing)
果実の潰しと同時に果梗を取り除く。果皮と種を含む果汁に酵母を加え、ポンプで発酵タンクに送る。黒葡萄でもこの時点で果皮を取り除けば、白ワインを造ることもできる。
3.発酵 (fermentation)
10-15度で低温発酵する白ワインに対し、赤は最高20度くらいまでの温度で発酵する。発酵中には、ワインの表面に浮き上がる果皮をワインの中につけ込み、赤い色素と風味を果皮から引き出す作業(醸し)を行う。果皮とワインの接触期間を短くすると赤い色が薄くなり、ロゼワインはこの接触がほとんどないためにピンク色になる。
4.圧搾 (pressing)
発酵終了後、タンクから抜いたワインと、プレス機で果皮を圧搾して搾り出したワインをオーク樽に移しブレンドする。オーク樽に移す前にワインの澱引をすることもある。
5.熟成 (maturation)
オーク樽で熟成することによりワインの味はソフトになる。ワインの味の濃さによって熟成期間が決まり、ピノ・ノアールなど渋みが少なく軽いタイプのワインは10ヶ月前後、シラーズなどの味が濃くしっかりしたワインは、2年から最高3年くらい樽熟成する。
6.濾過 (filtration)
熟成の終わったワインを精澄し、フィルターにかけて濁りを取る。
7.瓶詰め (bottling)
ワインをボトルに詰め、コルクとキャップを付けて静かに寝かせた後、レベルを貼って出荷する。
木村靖
*筆者の木村靖さんは、オーストラリアの大学でブドウ栽培学とワイン醸造学を学ばれました。
1993年より「ユーカリ」に「木村靖のワイン講座」を執筆していただき、この記事は1995年2月号を再掲載しています。
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