ワイン入門(24) 木村靖のワイン講座
ヴィクトリア州のワイン産地(1)
ヴィクトリア州に葡萄が初めて植えられワインが造られたのは、ヤラヴァレーで1834年のことである。1851年にヴィクトリア州で金脈が発見されると、葡萄栽培も金鉱の町を中心とした土地へと急速に広まり、本格的なワイン造りがはじまる。
当時は、ワイン生産の中心地であったヤラ・ヴァレー、メルボルンの近郊ジーロングの周辺から良質なワインが生産され、その生産量の多くは英国に輸出されていた。19世紀末、ヴィクトリア州はオーストラリアでワイン生産量の最も多い州に成長するが、ヨーロッパから持ち込まれた葡萄の苗木に付いてきた害虫「フィロケセラ」が各地の葡萄畑を侵害し、世界経済不況も重なったことから、州政府はこの状態を切り抜けるために、各農家に放牧や酪農業に専念するよう指示をだした。こうしてヴィクトリア州のワイン産業は低迷していくことになり、20世紀はじめには葡萄畑が牧草地に替わり、数多くのワイナリーが消滅し、苦難を乗り越える力のあったワイナリーだけが操業を続けていくことになる。
それから半世紀、オーストラリアの近代ワイン産業の夜明け、といわれる1960年代になると、ヴィクトリア州でも以前に良質なワインが造られていた地区で葡萄の栽培が蘇り、新しい技術を導入したワイン造りが各地で始まった。ヴィクトリア州には中小規模のワイナリーが多く、現在12の産地に約200社が操業を行っている。
ヴィクトリア州のワインは良質なものが多く、特に州南部や内陸部でも標高の高い寒冷地からの白赤ワインとスパークリング・ワイン、北部や中央部の温暖地では赤ワインと酒精強化ワインが特産で、いずれも世界的に評価が高い。
Yarra Valley
メルボルンから北東60kmに位置し、田園風景が魅力的な産地。1834年にヴィクトリア州で初めて葡萄が植えられた、同州ワイン造りの発祥の地である。19世紀末までは質と量において名高い産地であったが、その後、産業の発展は衰え、1921年に最後のワイナリーが閉鎖された。過去の業績からも高級ワイン生産の可能性を秘める産地といわれ、1960年代から新しいワイナリーが次々と創立された。現在約35社のワイナリーが良質なスパークリングとテーブル・ワインを造っている。
特産ワイン:白:Chardonnay、赤:Pinot Noir, Cabernet Sauvignon、スパ-クリング・ワイン
Mornington Peninsula
メルボルンの南東50kmに位置し、ポートフィリップ湾とウエスタンポート湾に挟まれた半島。美しい海岸や広大な牧草地に囲まれたワイナリーの数は28社。小規模なワイナリーがコンパクトに集まるオーストラリアでも新しい産地の一つであり、良質なテーブルワインが生産されている。
特産ワイン:白 Chardonnay 赤 Pinot Noir, Cabernet Sauvignon
Geelong
メルボルンから南西40km。昔からヴィクトリア州の主要港として栄え、ヨーロッパの影響を強く受けたこの地区は、1860年代にヴィクトリア州最大のワイン産地としても栄えた。しかし、1877年にヨーロッパから伝わった「フィロキセラ」の侵害を直接受けたこともあり、葡萄畑は壊滅してしまう。1960年代から葡萄栽培が復活し、現在8社が操業する新しい産地。
特産ワイン:白 Chardonnay,Riesling 赤 Pinot Noir,Shiraz
木村靖
*筆者の木村靖さんは、オーストラリアの大学でブドウ栽培学とワイン醸造学を学ばれました。
1993年より「ユーカリ」に「木村靖のワイン講座」を執筆していただき、この記事は1995年3月号を再掲載しています。
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