ワイン入門(32) 木村靖のワイン講座
ワインと健康(1)
*男性4杯女性2杯
オーストラリア国立健康医学調査会は、適量なワインの消費は健康のために良いと薦めている。この適量とは、成人男性が標準のワイングラス(120~150ml)で1日4杯、女性は1日2杯が目安となる。標準のワイングラスには約10gmのアルコールがあり、同量のアルコールを消費するには、ポートなど酒精強化ワインの場合は60ml、ウイスキー30ml、ビール285ml、ライトビールで425mlが標準グラス1杯となる。さらに、1週間に1~2日はアルコール・フリーの日を持つのが健康に良いワインの飲み方、と薦めている。
*ワインは世界最古の薬
ワイン葡萄の栽培は、ロシアの黒海周辺で1万年前に始まったといわれる。その後、栽培はイランからイラク、エジプトを通じてギリシャ(4千年前)とローマ帝国(3千年前)に伝わり、ワイン造りも地中海を中心とした国々で盛んに行われるようになった。そして、ローマ帝国の侵略により、フランスやドイツなどに葡萄栽培とワイン造りが伝えられたのが西暦50年以降のことである。当時、これらの国々の医師は、ワインが病やケガの治療に効果があることを知り、古代ギリシャの医師で、現代西洋医学の理論を唱えたヒポクラティスは、ワインを鎮静剤、解熱剤、消毒剤や強壮剤として用い、不眠症、食欲不振など幅広い治療にも利用していたといわれる。
*医師が創立したワイナリーの多い国
オーストラリアにワインが初めて伝えられたのは1788年。建国のためにオーストラリアに第一歩を踏み入れた英国人アーサー・フィリップ提督が率いた艦隊に同乗した医師ジョン・ホワイトは、オーストラリアまでの長旅のためにワインを十分に積んでおくよう指示を出している。オーストラリアでの最初の「ワイン・ドクター」と呼ばれる人物は、1818年にシドニー郊外で葡萄栽培を始めた医師ウイリアム・レッドフェンである。現在、オーストラリアには600社近くのワイナリーがあるが、医師が創立したワイナリーは、そのうち150社を数え、全国ワイン生産量の6割近くを生産している。1843年創立のリンデマンズ社(Lindemans)
、1844年創立のベンフォールズ社 (Penfolds)
など、世界でも有名なワイナリーがその中に含まれる。こうした背景を日本と関連させると、「酒は百薬の長」ということも理にかなっているような気がする。
木村靖
*筆者の木村靖さんは、オーストラリアの大学でブドウ栽培学とワイン醸造学を学ばれました。
1993年より「ユーカリ」に「木村靖のワイン講座」を執筆していただきました。この記事は1995年に掲載したものをリピートしています。
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