ワイン入門(34) 木村靖のワイン講座
ワインとチーズの相性(1) これは2008年11月号に掲載のこと。(1995年9月より)
ワインとチーズは、気候と土壌が風味を作り出す点、微生物の発酵作用で造られる点で共通性がある。伝統を持つヨーロッパの産地で造られるワインには、その土地で造られたチーズが自然に合い、それぞれの地元の個性的な食文化の特徴を現している。これは、日本のお酒に味噌と漬物という関係に似たものがある。
チーズ造りとワイン造りの歴史にも共通点が多い。チーズ造りの発祥は、今から約7千年前に中央アジアのモンゴル草原地帯で飼育されていた馬や羊、山羊の乳から造られたという説が強い。その後、チーズ造りはイランからイラク、トルコを通じてギリシャに広まる。古代ギリシャでは軟質や硬質など、現代のチーズ造りの基本となる技術が発達したといわれ、この技術はイタリアへと伝わっていく。こうして、ローマ帝国がフランス、スイス、ベルギーなどを征服し、ヨーロッパ諸国にチーズ造りが広まったのは紀元前1世紀ごろである。
オーストラリアにチーズが伝わったのは建国の1788年。19世紀には、主に英国風のチューダー・チーズが自家消費として造られていた。今世紀に入ると、クイーンズランド州やヴィクトリア州で量的生産する会社が創立したが、生産の主体は、このチューダー・チーズであった。現在のように多種多様のチーズが生産されるようになったのは、イタリヤやギリシャなどヨーロッパ諸国からの移民が増え始めた1950年代になってからである。オーストラリアの優秀なチーズの造り手が、ヨーロッパの有名なチーズ産地から伝統的な製法を学び、チーズの品質向上に大きく貢献したことが、オーストラリアの現代チーズ産業の基盤となっている。現在、オーストラリアは、世界的にも良質といわれるミルクから、本場のチーズに引けを取らない良質なチーズを生産すると高く評価されるようになり、約60社から年間平均20万トン、約80種のチーズが造られている。
木村靖
*筆者の木村靖さんは、オーストラリアの大学でブドウ栽培学とワイン醸造学を学ばれました。
1993年より「ユーカリ」に「木村靖のワイン講座」を執筆していただきました。この記事は1995年に掲載したものを再掲載しています。
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