Yukari Shuppan
オーストラリア文化一般情報

2002年~2008年にユーカリのウェブサイトに掲載された記事を項目別に収録。
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インタビュー (36)     湯浅洋子                                 
  
この欄では有名、無名、国籍を問わず、ユーカリ編集部で「この人」を、と思った人を紹介していきます。 今月はユーカリに「歩いてみよう」を書いてくださっている湯浅洋子さんに、ブッシュウォーキングと公文についてお話をうかがいました。
 
*ブッシュウォーキングはどのくらいしていらっしゃるのですか? 
1990年に始めましたのでもう14年になります。それまでバトミントンをしていたのですが、家を建る間、一時中断していました。家の方が一段落して、またバトミントンを始めたのですが、身体が思うように動かなくなっていたので、あきらめざるをえなかったんです。その代わりに初心者のエアロビックスを始めたのですが、1日の最後にパワーウォーキングというのがあったんです。これは早足で1kmくらい歩くのですが、オーストラリア人は足が長いから歩くのが速くて、ついて行くのが大変だったのです。それで、じゃあ、ただ歩くだけにしようかと思って、恐る恐る近所のブッシュウォーキングクラブの初級に入ってみました。ところがその初めて参加したブッシュウォーキングがすごく楽しかったんですね。それで、ではちょっとやってみようかな、という気になって、次の中級クラスにも参加して、うん、それからしばらく続いていますね。
*そのしばらく、というのが14年なわけですね。それだけ楽しいんでしょうね。       
そうですね。最初は運動のつもりで始めたのですが、今ではフレンドシップの方に重点が移っています。しばらくグループに会えないと淋しくなってきます。
*いい仲間ができたのですね。
そうですね。1日12km~15kmぐらい一緒に歩きますが、私たちのグループはただ黙々と歩くわけではなくて、おしゃべりしながら歩きます。しゃべりながら歩いていると、だんだん自分の地が出てしまいます。格好つけてもしょうがないし、だから自分をさらけだしてしまうことになります。他の人もそうみたいですね。良いことも悪いこともバレてしまいますが、よそゆきではなくて地で付き合うので、それで続いているのだと思います。そんなわけで、うちのクラブでは新しいパートナーを見つけた人も何人かいますよ。結婚したのは2組だけですが。
*どのぐらいのスピードで歩くのですか?

平地だと時速4~5km、上り坂だと3~4kmぐらいですね。

*歩きながら、そんなに英語でお話をするのも大変ではないですか?
いいえ、おしゃべりする方が楽しいですよ。歩くよりもおしゃべりの方が主みたいな感じです。だから歩いているのを忘れて、いつの間にか10kmくらい歩いていた、ということになるんです。いろいろなトピックの話が聞けます。政治の批判からテレビ番組、英国王室のケーキの作り方、それに子供や孫の教育やこの前に行ったホリデー、と話はつきないんですよ。70歳以上の人もいますので、リタイアメントビレッジはどうだ、とかいう議論はしょっちゅうですし、以前に葬儀会社に勤めていた人がいて、葬式や墓地の値段の話も聞けました。リタイアした人が多いので、元何々ということになるのですが、例えばコンピューターの仕事をしていた人には、そういう相談もできます。悩みや頭にきたことがあると、ここでさらけ出しますから気分もよくなります。とにかく平均年齢が65歳くらいですから50代の私なんか、どちらかというと若い方で、みなさん人生経験の豊かな方たちばかりなんですよ。これでも最近、平均年齢は下がってきたのです。やはり80歳を越えると止める人がでてきますので。

*えっ? 80歳でもそんなに歩くのですか?

そうです。80歳くらいの人が1日、10kmくらい平気でとことこ歩きます。長い間続けていらっしゃるから、歩くのは私たちより速いくらいですよ。だから私も80歳くらいまで生きていても、ああやって歩いていたいもんだな、と思っています。
*すばらしいですね。どれくらいの頻度で歩くのですか? 

一応週に1度あります。レベル別になっていて、クラブでは半年分の予定をたてています。それを見て、ここはちょっときつそうだとか、暑そうだとか、ここは前に行ったから行かないとか、いろいろ事情を考え合わせて月平均3回ぐらい参加しています。メンバーの半数くらいは他のグループにも入っていて、週2、3回歩いています。私もそうでしたが今は他の用があって、あまり歩けなくなりました。その代わり泊りがけのキャンプにはできるだけ参加するようにしています。

*そのクラブはどのように運営されているのですか? 経費とか計画をたてたり実施したり、といろいろあると思いますが。
費用は会費が年間25ドルです。それと歩く出発点までは車で行くので、運転する人にガソリン代として1kmにつき10セント払います。これはすっきりしていていいと思います。運転したくない人は、費用を払えば無理して運転しなくて済むし、いつも運転してもらって申し訳ないと、気兼ねをすることもないですから。あと会費を集めたり、半年分の計画をたててプログラムを作成したり、ウォークをリードしたりするのは、みんなボランティアです。私も10年以上で長いですから、リーダー役をすることがあります。リーダーには向き不向きがあって、付いて行くだけの方がいいから、といってやりたがらない人もいます。でも、そういう人に限って、文句が多かったりするのですね。コースがきついとか、疲れるとか。食べてはいけない、なんて言っていないのにお腹が空いたとか。リーダーをする時は下見に行って、駐車場がどこにあって、途中トイレはどことどこにあって、とか調べておいたり、ランチや中休みはこの辺にしようとか、いろいろ考えるわけですが、実際にリーダーをやったことがない人には、そういう苦労がわからないんですね。
*そうそう、自分ではやらないで文句ばかり言う人というのは、どこにもいますね。万国共通。そういうところは日本人もオーストラリア人も同じですね。 
ただ、そういう文句が出ると、まわりの人がその場でたしなめてくれますね。「あなたはリーダーをしたことがないから、わからないから、そういうことを言うけれど、それは言うべきではない」とか、冗談ぽく「残念でした。今日のリーダーは xx さんだから、みんな従わなければならないよ」とか。
*クラブはプライベートなものなのですか?
いいえ、ビクトリア州と関連していて傷害保険にも加入しています。だから事故などが起きた場合でも、きちんと保障されるようになっています。ウォーキング連盟主催のウォークにも参加しています。
*クラブの大きさはどのくらいですか?
私のいるクラブは小さくて40人くらいだと思いますが、大きいところではメンバーが200人というところもあります。キャンプや自転車ツアーをやったり、海外まで出かけるようなところもあるようです。まあそのクラブによって大小さまざまで、活動のかたちも異なるようです。私たちのクラブは年齢層が高いので重いリュックを背負って長い山道を登る、というようなことはしません。それとフルタイムで働く人が少なくなったので、その点時間的に自由がききますから、スクールホリデーの混雑を避けて平日にちょっと遠出して、2、3泊することもできるようになりました。去年はイースターホリデーの始まる1週間前に、4泊5日でウイルソンズプロモントリーまで行きました。遠出をする時には毎日歩くので、1日平均8~10kmに計画します。私は夕日をみるために出かけた、その日2回目の歩きには参加しなかったのですが、私より上の人たちが、1回も休まず全部で50km以上を歩き通したのですよ。彼らを見ていると、あと20年くらいはああやって歩けるのだな、と思えてはげまされます。
*クラブのメンバーには誰でもなれるのですか?
いいえ、まず3回参加してもらって、その人がクラブと同じレベルで歩けるか、クラブの人たちとうまくやっていけそうかどうか、ということをミーティングで検討します。今まで入会を拒否された例はありませんが、やはりあまり極端な人とか、ブッシュウオーキングの場合は、ゴミなどは持ち帰る場合が多いので、そのへんにすぐ捨てたりするような、マナーの悪い人、社会性のない人はクラブとしても困る、ということがあります。逆にその人の方で、程度や年齢が合わないといって入会しない場合もあります。
*ブッシュウオーキングは盛んですよね。クラブの数も多いのでしょうね。
はっきりした数は知りませんが、クラブは大小たくさんあるし、歩いている人も多いようです。たいていはブッシュウォーキング連盟に参加しているので、興味のある人は問い合わせて、近くのグループを紹介してもらうといいですよ。
*ブッシュウオーキングの一番の楽しみ、というのは何なのでしょう?

自然のなかを仲間と歩く、ということでしょうね。森林浴というのですか、健康にいいですよね。頭が痛かったりして、気分がすぐれないから、参加しようか、どうしようかまよっている場合でも、参加して歩いてくるとすっきりして元気になってしまう、ということが多いですね。それと家族の者がぜんぜん興味がなくて行くチャンスのない所や、一人では行けないような所にも行けることでしょうね。私はビクトリア州内のかなりの場所に行きましたよ。それにシティ周辺でも、車では見えない、思いがけない穴場を発見することがあるんですよ。

*健康にいいし、精神にもいい、ということですね。ではブッシュウオーキングの話はこれくらいにして、次に公文についてうかがわせてください。オーストラリアに公文が入って来たのはいつ頃なのですか?
そうですね。去年が20周年でしたから、1984年だと思います。
*オーストラリアの公文は、どんな科目をしているのですか?
初めは算数だけで日本語が確か88年英語が始まったのが92年です。
*えっ、英語も教えているのですか?

ええ、英語が母国語の子供たちが、どうして英語ができないの?という気がしますが、国語である英語の読み書きができない子が増えてきたので、92年に英語も入れることにしました。うちではオーストラリア人の大人の生徒も2人勉強しています。あと日本語もあります。日本語は2種類あって、日本人以外が外国語として習う日本語と、日本人が母国語として習う国語です。

*ではオーストラリア人の子供で公文に入って算数をしたい、というのはどういう動機で入ってくるのですか?
やはり最初は問題があって、なんとかしたい、というのが動機でしょうね。公文の場合は小学校5,6年の生徒でも、初歩の小学校一年くらいのレベルから始めます。保護者にはそのことを説明して納得してもらってから始めます。それに同意できない人はもうその段階で公文にきません。公文の方針に同意して始めた場合、たいていの子供は半年から1年くらいでクラスの標準レベルに追いつきます。それからは、たいてい学年より先に進みます。小学校4,5年で中学レベルの算数をしている子もたくさんいますよ。オーストラリア人の子供の場合は、「クラスのレベルに追いついたからもういいや」という感じでやめてしまう人が多いですね。中国系の人の方が親も本人も熱心で、先に進んで行きます。公文の場合はアカデミックというよりは、勉強する習慣を身につける、ということを重要視していますので、2年3年と続けると、勉強する習慣がついてくるので、親がいちいち言って勉強させなくてもよくなりますから、親にとって先で楽になるという利点があります。
*先ほどオーストラリア人の場合、クラスのレベルに追いつくと止めてしまう人が多いとおっしゃいましたが、彼らがまた戻ってくるということもありますか? 公文を止めたらまたできなくなったとか。

というよりは、公文てやっぱり良いんだ、と再認識してもどってくる人がいます。上の子は続かなかったけれど、と1、2年して下の子を連れてくるという例もたくさんあります。そういう時は、私は良いことをしていたんだ、と思えて気分がいいですね。別のあるケースでは、男の子なんですが、学校で算数ができすぎて他の子供に「どうしてこんなに簡単なのが解からないのか、お前はバカじゃないのか」といって、嫌がらせをしたりいじめたりして問題があったんですね。その子が公文に入ってきて、もうどんどん先に進んで小学校6年生の時に中学3年生の算数をするようになりました。そうなると自分が先に進みたいから、人のことなどかまっているよりは自分で勉強する方がよくなって、他の人に迷惑をかけなくなった、という話を聞きました。公文の教室ではできる子がたくさんいますが、他の子を手伝ってあげるとかはしますが、できるからといっていばるような生徒はいないですし、自分より年上の子が自分より下のレベルをやっていても笑ったりはしません。もう一つ、私がめんどうをみた子で九九を1年間やった子がいます。私はあんまりかわいそうで、他のことをやらせようかと思ったのですが、親が「この子は九九ができないのだから、そのまま続けてください」というので1年間やりました。小学校1年生の時に九九を始めて、2年生になってもまだやってました。それほど徹底的に基礎学力をつけさせるので、後ですごく速く伸びていきます。その子は小学校5年生の時に中学3年の算数をやるようになりましたよ。

*それはすごい!九九を1年間も続ける、という忍耐力というか根性が。それだけ努力することが身について、それを他のことにも応用できれば、それは素晴らしい結果がでるでしょうね。公文教室というのは週に何回ほどあるのですか?
教室は週に2回ですが、生徒は毎日家で勉強をすることになっています。一応私はクリスマスと新年と自分の誕生日以外は毎日するようにいっています。家でちゃんとする子とそうでない子とでは、進歩の仕方がぜんぜん違いますね。
*科目はさっきいわれたように英数国の3科目で、英語もご自身で教えていらっしゃるのですか?
ええ、まあ、一応。
*それはすごい! 
オーストラリア人の子供でも、自国語の読み書きができない子がけっこういるんですよ。公文の教材というのは会話よりも読み書きに重点が置いてあって、まあ、私たちがそういう英語の教育を受けてきていますから、やりやすいということがあります。ただ答案に間違いがあったとき、それをみつけるのが私は遅いので、そこはアシスタントにまかせています。日本語の場合は大人もけっこう来ますね。あとVCE(高校卒業試験)の準備をしている生徒ですね。公文で日本語をやった生徒はVCEでかなり良い成績をとっています。
*教室の人数は何人くらいなのですか?
私が現在担当しているセンターは小さいところでして、全部で70人くらいです。教室は月曜と木曜で生徒は好きな時に教室に来て、それぞれ与えられた教材で学習しています。多いときで一度に20人ぐらいですね。
*大きいセンターではもっと数が多いのですか?
地域によっては、200人、300人というところもありますよ。中国人が多い地域では公文をやる子が多いですね。彼らは算数が好きで得意ですから、もっと伸ばしていきたい、ということでしょう。あと新しい移民の多いところでは英語をやる子が多いですね。親が英語ができないので、子供に英語をやらせるとか。
*公文は日本で始まって、現在海外にも広まっているわけですね。
ええ、世界中に広まっています。40何カ国で公文をやっています。ですから学校教育の他で、世界で一番大きい教育機関なんですよ。毎年、各国での指導会議の他に国際会議も大陸ごとぐらいに開かれています。去年7月にケアンズで開かれた公文アジア・オセアニア会議に出席したのですが、アジアの国の人たちはすごく教育熱心ですね。程度も高くて子供たちは実際の年齢よりもずっと先に進んだ勉強をしています。英語の読み書きなど、オーストラリア人の同年代の子供よりできますよ。ほとんどの子が3歳くらいから公文で勉強を始めるそうです。
*アジアでは、日本をはじめ、インド、それから中国系の人たちが、すごく教育に熱を入れていますね。もっともアジアの人口の割合からみれば、限られたごく一部になるのでしょうが。

そうですね。台湾、シンガポール、タイなどもそうですね。こちらの方が驚かされるくらいです。4年前にはイギリスで開かれた会議に行きましたが、その時は南アフリカなどの英語圏の人とか、スペインなどからも参加がありました。日本での会議は特別で、2003年は45周年の大会が日本で開かれましたが、参加者が8000人で海外からも多数の参加がありました。公文先生のお姉さんが出席されて、この方は42年間公文をされています。公文をしていると頭がボケないそうですよ。30年、40年公文をやっている方たちが表彰されたのですが、皆さんしゃっきっとしていました。

*湯浅さんはブッシュウォーキングと公文と両方ですから、ボケの方は絶対大丈夫ですね。ところで公文は世界で唯一、成功しているサブエデュケーションのシステムですか? 他に似たようなのはないですよね。
塾のようなのはたくさんありますが、どちらかというと受験の「傾向と対策」といった感じですよね。水に浮けて泳げる者に、いかに速く上手に泳ぐかを教えているわけですね。公文の場合は、まずどうやって水に浮くか、という基礎から始めて、泳ぎ方を教えるわけです。それで水に浮けなかった者でも浮くだけでなくて、上手に早く泳げるようになっていきます。実際に効果が表れてくるので広まって続いているのでしょうね。自分が子供の時に公文をやったので子供にもやらせている、という具合です。
*日本式で現在、国際的に成功しているのは公文と鈴木式音楽教室でしょうか。あと分野は違いますが、最近の日本食、カラオケ、マンガにファッションなどの普及ぶりはめざましいですね。いいことですよね。昔日本は軍隊を使って影響力を海外に及ぼそうとして失敗しましたが、現在、文化面ではかなり成功していますね。ところで、湯浅さんがオーストラリアにいらしたのはいつ頃ですか?
永住で来たのが1982年です。もともとこちらの方面に興味がありました。最初は卒論でマオリの彫刻研究のためにニュージーランドに行きました。ニュージーランドに住みたかったのですが、その頃は移住が難しかったので、たまたまこちらに来ることになったわけです。

*それでオーストラリアにいらして公文を始められたわけですか?

いえ、初めは子供に習わせていました。引越ししたのと先生が帰国されたので一旦やめて、それから下の子がプレップ(プレスクールの略。小学校に入る前の幼稚園から小学校の間にある1年間の小学校入学準備期間として小学校内に設置されている。)に入学するのを待って公文教室を始めました。

*勉強をする習慣が身につくというのはいいことですね。それと続けていくという持久力ですね。勉強だけでなくて他のこともそうですよね。ブッシュウオーキングと公文の両方、ぜひ末永く続けて身体と頭、心身ともに若々しく保ってください。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。
                                   インタビュー:スピアーズ洋子

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