MELBOURNE Street by Street (48) Queen Street ― その 3 ― ケン・オハラ さて、今月もメルボルンの街を歩き、これらのビルディングが何を語りかけてくれるか、みてみるとしよう。先月に続き Queen Street を歩いて Lonsdale Street を渡ってみよう。 たいていの人はここで左側にある堂々とした古めかしい Titles office に目を留めて、19世紀の英国に思いをめぐらせることだろう。 しかしケン・オハラは右側の雑然としたオフィスビルに目を留める。そして20世紀のアメリカとその素晴らしい映画や撮影、写真などについて考える。 ニューヨークのタクシードライバーの話をしよう。このドライバーは、ある小さな古い家の前を通る度に、乗客に「あれは私のミリオンドラーの家ですよ」と語りかけた。乗客は「どうしてあれがミリオンドラーなのかね」と訊ねた。ドライバーは「1958年にXerox(ゼロックス) の株を売って、あの家を買ったんですよ」と答えた。 投資の観点からいうと、1958年にゼロックスの株を売るなんて最悪である。しかしながら、同年1958年にメルボルンの Queen Street の小さなオフィス 262-264 (1980年まで Xerox が借りていた。)は、ゼロックスの株を買うよりは、はるかに良い投資であった。 The Lederman Family of Melbourne は1962年に、このビルを $85,000 で購入し、1980年代の後半に、そのビルを分譲して売りに出した。その総合売却高は $3,775,000 であった。 その隣のビル 266-270 Queen Street は、1932年にMGMのオーストラリアオフィスとして建てられた。現在は the Bank of China がオーナーである。MGMの時代に、ビルの正面玄関を飾っていたライオンは取り除かれて今はない。 The Lederman family はここでも成功している。このビルを1980年に$340,000 で購入し、1985年に $1,725,000 で売却した。その後、1994年に the Bank of China が $1,600,000 で購入した。 このMGMのオフィスビルは、アメリカの有名な映画監督セシル・デミル(ハリウッド映画の全盛時代に、スペクタクルな歴史映画を創った。)の逸話を思い出させる。 デミルはキャスト1万人、千頭の馬、十頭の象という大がかりなロケを構えた。彼は用心深い男であった。万が一のためにカメラは3台備えていた。 長いシーンが終わった後、彼はチーフカメラマンに訊いた。「上手く撮れたかい?」「それが、こんなこと今まで一度もなかったのですが、フィルムが途中で切れてしまいました」。彼はセカンドカメラマンに訊ねた。「君は上手く行ったかい?」「いえ、それが、象が僕のカメラの前で止まって動かないので、象しか撮れていません」。デミルはサードカメラマンを付けておいて良かった、と思いながら、丘の上にいるカメラマンに、メガホンを当てて叫んだ。「君は万事OKかね?」「万事準備OKです。いつでもスタートできます」。 映画の撮影も不動産の投資もタイミングが大切なようだ。 Copyright: Ken O'Hara |