Yukari Shuppan
オーストラリア文化一般情報

2002年~2008年にユーカリのウェブサイトに掲載された記事を項目別に収録。
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ドリームタイム(10)

              ―――結婚―――

 

Valeria Nemes       訳 前田晶子

アボリジニーの社会は役割が分担されています。誰もが部族の中で自分が属する居場所を持ち、部族に貢献すべく役目と責任を伴う役割に組み込まれています。狩猟と採集の民ですから、役割は自然と決まってしまって、男は狩猟、女は採集に出かけます。

すでにお話ししたように、一夫多妻制の部族もあります。ほとんどは必要性があって取り入れられ、発展してきた風習です。女が後家になると、必ず男の誰かが その人の面倒を見るようになっています。妻側の家族や親戚の中で、未婚または相手を亡くした姉妹や従姉妹がいたら、夫の庇護の下に入り面倒を見てもらう時もあります。又、部族の中で地位が高く、豊かで、人から尊敬されている男は、他の人より多くの妻を持ってもよいとされています。ほとんどの結婚は生活が安定している年配の男と若い女という組み合わせになるので、若い妻が若い愛人を持つことは許されています。

ある部族では、結婚前の女の子に厳格な手ほどきをします。叔父や年配の男が重要な役割(初体験)をし、女性として成長させます。時には儀式の形をとって行われることもあります。

アボリジニー社会の男と女の関係を学ぶには何も特に人類学の勉強をする必要はありません。ドリームタイムのお話そのものが、男女間の現実を映し出しています。そして男達の方が重要な役割を担うという決まりにも例外があることもわかってきます。あるお話では、女が家族の食料確保の本当の担い手として、さらには超能力者としても描かれています。2人の妻の争い(同じ1人の男に嫁いだ姉妹の場合もある。)もよく出てくるお話です。他には、年寄りの妻が若い女に妻の座を置き換えられる、争いや対立の末、悲劇になったり、喜劇になったりといったお話もあります。さらには、妻2人が組んで、夫をだましたりもして自分達の身を守る話もあります。若い男と年寄りの男が若い妻を取り合う話もよく出てきます。

 

次にあげるドリームタイムのお話はコーラル クリーパーという地面をおおって咲く花の由来と同時に、年寄りの男と結婚するはずだった若い女のお話です。

コーラル クリーパー(Coral Creeper)

ユンダは生まれた時から、すでに妻が二人いる年寄りの男と結婚することが決められていました。男は長い間毎年ユンダの両親に食物を贈り続け、娘をもらうことを確約していました。ユンダが16才になった時、儀式によって手ほどきを受け、結婚する日間近にせまっていました。
男の妻はこれをねたましく思い、ちょうどその頃ほかの部族からやって来たブージンという若い男とユンダを会わせよう企てました。若い2人は恋に落ち、妻は手助けして2人を駆け落ちさせてしまいました。
男はそれを知ると、親戚の男達を集め、すぐさま後を追いました。ユンダは疲れて動けなくなったので、ブージンは彼女を抱えて逃げました。ユンダの足からは血が流れ出しました。ちようど川にきたので、若い2人は泳いで渡り、逃げきりました。追っ手達はそれほど若くなかったので、川を渡れなかったのでした。
ユンダは一緒になれた幸せな2人を思い起こさせてくれる贈り物を残しました。傷ついたユンダの足から地面に落ちた血は赤い花に変わりました。今私達がコーラル クリーパーと呼ぶ、色がサンゴのように赤い花が地面を一面におおう植物です。

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