Yukari Shuppan
オーストラリア文化一般情報

2002年~2008年にユーカリのウェブサイトに掲載された記事を項目別に収録。
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ドリームタイム(15)

アボリジニーの自然暦(Nature Calendar)

                   Valeria Nemes     訳 前田晶子

アボリジニーは 、彼ら独自の自然暦によって暮らしていました。オーストラリアの北部では、季節が変わると、自然の概観は一変します。そこに住む動物も人間もそれに対応して習慣や生活様式を変えて生き延び、そして有利な条件を確保してきました。

何千年の経験を経て、アボリジニーは動物の習性を学んできたので、狩猟や採集の方法は季節の変化にともなって変わっていきました。彼らは動植物の変化をよく観察していたので、いつ、どこを探せば何が見つかるか知っていました。たとえば、果物や食用になる根っこはいつが採り頃か、ガン、カメ、ワニなどの産卵期や場所をよく知っていました。

アボリジニーの自然暦は、具体的に言うとこのようなものです。「あの木が赤い花をつけ始めたから、草に火をつける時がやってきた。あの木が黄色い花をつけ始めたから、ワニの卵が採れる頃になった。」と言う具合です。

オーストラリア大陸の北方、アーネムランド(Arnhem Land)のアボリジニー達は季節を六つに分けています。もちろん主な季節は、雨季と乾季の二つですが、それぞれをもう少し細かく分けて、合計六つの季節があります。一応目安として、月を書き加えておきましたが、1~2ヶ月ずれることはあります。

①雷の季節(10月-11月-12月初め)
雨が降り出す前にやってくる季節です。風は東から吹き、午後になると雲の動きが速くなって、稲妻と雷が起こります。時には一晩中稲妻が光り、夜が明るい時もあります。湿気が多くなり、人も動物も植物も雨を待ち焦がれる時期です。

②雨の季節(12月末-1月-2月)
モンスーンのような雨が激しく降り、乾季の間に乾ききった地面は瞬く間に消えてしまいます。川やビラボン(オーストラリア英語で茶色く濁った池、水溜りのこと)の水かさは増し、滝を落ちる水の流れは大きくなり、水は崖から渓谷へと流れ落ちます。暑さを避けて泥の中にもぐっていたワニが出てきて、水辺を歩き回り、湿地帯では木々が半分水に浸かります。植物はぐんぐん育ち(特にスピアグラス、spear grass,刀のようにとがった葉が1.2m位になるやわらかい草で藪になる)、マグパイグース(白黒のガン)の卵が採り時です。

③収穫の季節(3月-4月-5月初め)
この季節も雨季の一部ですが、雨の降り方は前の季節ほど激しくはありません。風は南東から吹くようになります。土地は潤い、緑の草を食べて、動物は肥るので、アボリジニーにとっては狩のシーズンです。川には魚があふれ、食用になる根っこはよく育っているので収穫時です。首長カメの卵も採れるようになります。前の季節に茂ったスピアグラスの草原は雨と嵐でなぎ倒されてしまいます。

④枯れ草の季節(5月末-6月初め)
今まで高かった気温は下がりはじめ、雨は降らなくなり、だんだん乾いてきます。川やビラボンの水は減り始めます。そして草原を焼く季節の始まりです。理由は二つあります。一つは高い草を焼いて見晴らしをよくして、狩の時獲物を見つけやすくするためです。又小動物の巣穴も見つけやすくなります。二番目は大きなブッシュファイヤー(山火事)を防ぐためです。ワニは川の土手で日向ぼっこをし、水連の花が咲きます。

⑤乾季(6月末-7月-8月初め)
気温はさらに下がり(それでも30℃くらいはある)、乾季が始まります。水を避けて高台に逃げていた動物(ヘビ、ネズミなど)が草原に戻ってきます。アボリジニー達の獲物になります。

⑥暑く厳しい乾季(7月末-8月-9月)
暑くて乾燥した一番つらい季節がやってきます。狩の獲物はガンとカメです。水鳥は残された水辺に集まっています。ワニは卵を産みはじめます。

次のお話、「エミューとターキー」はアボリジニーが動物をよく観察していたので出来上がったお話です。どうして、片方の鳥は空を飛べて、もう片方は飛べないかを説明しています。(このお話の中のターキーはオーストラリアンターキーで、飛べる鳥です。)

エミューのワラティとターキーのワラは姉妹でした。その昔、2羽とも空を飛 ぶ鳥でした。2羽はヒナをたくさん抱えていました。
ある日、エミューは妹にこう言いました。「食べ物が十分ないから、私達、2羽だけ残して後のヒナは殺しましょうよ。」ターキーは承諾して、自分のヒナを2羽だけ残して、頭を打って殺してしまいました。でも、エミューはターキーをだましたのです。エミューは羽の下にヒナを隠していました。エミューのヒナは全員いました。ターキーは大変腹を立てて、だましたエミューに怒りました。そして2羽のヒナを連れて飛び去りました。
ターキーはしばらく怒っていましたが、ある日、名案が浮かびました。ターキーは子供達に言いました。「私の姉さんのワラティに会いに行こう。でも、行く前に私達の羽を短くたたんで、歩いていきましょうね。姉さんには、羽を切ったと言うんだから、飛んではだめよ。地面を歩いて、食べ物を探すのよ。」ターキー一家は、そうやってエミュー達に会いに行きました。
エミューはターキー達が歩いているのを見て、「どうしてあなた達飛ばないの。」と聞きました。ターキーは「私達、羽を切ったの。そして地面の上の食べ物を探すのよ。とってもいいわよ。あなた達もやったらどう。」と言いました。エミューはヒナと自分の羽を切ってしまいました。エミュー達が、羽から血を出して座っていると、ターキーと2羽のヒナは羽を広げて、飛び去りました。
こうして、エミューはいつもヒナを引き連れて、地面を歩くようになりました。


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