Yukari Shuppan
オーストラリア文化一般情報

2002年~2008年にユーカリのウェブサイトに掲載された記事を項目別に収録。
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インタビュー (10)       Andrew MacGregor 
                                   尺八演奏家
  
この欄では、有名、無名、国籍を問わず、ユーカリ編集部で「この人」を、と思った人を紹介していきます。今月のこの人は、メルボルンの尺八演奏家 Andrew MacGregor (アンドリュー・マクレガー)さん にインタビューをさせていただきました。
 
*アンドリューさんは8月の末から9月に日本へ行っていらしたのですね。日本はどちらへいらしたのですか?
第三回国際尺八フェスティバルに参加するために最初に東京へいきました。暑かったですよ。冷たい飲み物をたくさんたくさんのみました。

 *国際?尺八フェスティバル? 日本以外にも尺八の演奏家は多いいのですか?
いいえ、国際といっても、フェスティバルの参加者は250人ぐらいで、そのうち日本人以外の参加者は20人くらいでした。フエスティバルも今回の正式名は「尺八東京サミット」といいます。前回の尺八フェスティバルはコロラドで開催されて、このときは日本人外の部門もある国際フェスティバルでした。今回は国際部門がなくて、すべて日本語で行われ、プログラムも全部日本語で書かれていました。7時間に渡る素晴らしいコンサートでした。3部に分かれてその間に5分ずつの休息がありました。日本語が読めないので次に誰が演奏するのかわかりませんでした。10分間席を外して戻ってきたら、丁度人間国宝の青木師匠が演奏を終えてお辞儀をしているところでした。これまでたくさんの尺八演奏家の演奏を聞きましたが、彼の演奏は本で読んだだけで聴いたことがなかったので、返す返すも残念です。
 
*日本以外ではどんな国の演奏家が参加していましたか?
まずオーストラリアから5人で、これは大きな代表団でした。アメリカ、ドイツ人も何人かいました。しかし、やっぱりなんといっても尺八はすべて日本が中心で、海外の演奏者は少数です。日本では外人が邦楽演奏をするというのは、珍しさもあって特別扱いされる面もあるので、それなりに有利なところもありますが、帰国してからは、他の人の演奏を聞く機会もないし、音楽について話す相手もいないので、日本以外で演奏を続けてレベルを保っていくのは大変です。
 
*聴衆も日本以外では少ないでしょうね。
その点はなんともいえないですね。日本の聴衆も少なかったですよ。100人ぐらいでしたよ。
 
*たったの100人ですか?
全部で約350人でした。演奏家として登録している人が約250人。一般聴衆が約100人です。2000人は優に入れるコンサートホールで、山本峰山、人間国宝の青木師匠をはじめとする演奏家が参加した7時間にも渡る素晴らしいコンサートだったのですよ。主催者側はがっかりしたと思います。日本の人は邦楽に興味がないのでしょうか。
 
*そうでしたか。現在日本は復古調で日本の古い伝統文化が見直されれいると聞いていたのですが、演奏者や聴衆に若い人はいましたか。
いました。今年から学校の授業でもとりあげるようになったということです。今回のこの大会でも若者の部門があって、若い人が参加していたのは本当に良いと思いました。だけど、残念ながら一般の人々は邦楽に興味を示さないようですね。
 
*そうなると経済的な面でも大変ですね。
伝統音楽を守る、ということで日本では政府からの援助があるのかどうか、私は知りません。人間国宝といわれるような人は別として、他には多分なにもないのでしょうから、日本の演奏家も大変でしょう。家元の師匠でも郵便局の職員として働いていて、余暇を使って弟子たちに教えています。それに家元というシステムも若い人には人気がなくなってきているようです。この大会でもそれについて議論がありました。

*ところで話は変わりますが、アンドリューさんが初めて尺八の音をきいたのはいつのことですか?
もう30年以上になりますが、レオン・ラッセルのコンサートを録音したレコードでした。そのレコードの一部に30秒ほど尺八が入っていました。これまで聞いたこともない際立った音に戦慄を覚えました。でも、一緒にいた子供たちは、聞き慣れない音におびえて隠れてしまいました。けれど、私はその音に魅了されました。わたしはその頃合気道を習っていたのですが、偶然にも合気道の先生が趣味で尺八を作っていました。数年後に私も一つ作ってもらいました。でも、教えてもらう人がいなくて、カセットテープが私の先生でした。その後シドニーに Riley Lee という尺八の演奏家がいることを知って、10年ほどの間、シドニーまで習いに行きました。   

*尺八を始めた時に、日本の文化とか東洋的なものに何か興味がおありでしたか?
合気道は始めて5年経っていました。他に指圧とか氣、それに漢方にも興味がありました。

 
*合気道を始めたのには、何か特別な理由があったのですか?
普段の生活のなかで、自分をコントロールして気持ちを平静保ちたい、と願ってのことです。物理的な攻撃に限らず、精神面での個人攻撃やプレッシャーに対して、自分をコントロールできるようになりたいと、そういうことが自分は苦手だと、思っていましたから。いわゆる物理的なセルフディフェンスは、修業によって自信がつき、結果として伴ってきたもので、目的ではありませんでした。         
 
  *そうですか。それで尺八は20年以上も続けてこられたのですね。
 もちろん趣味としてですか、余暇はほとんど尺八のために使っています。1993年には田嶋直士師宅に弟子入りしました。このときは尺八だけでなく作法などの文化もいろいろと学びながら、腕を研くことが出来ました。でもオーストラリアに戻ってきたら、他の人の尺八を聴く機会もまれです。年に5,6回はシドニーに行って、13時間ぐらいレッスンを受けてきます。新しいスコアやレコーディングをたくさん持ち帰って、メルボルンで練習します。私の尺八人生において常に距離によってこのように、教えを受けることが制限されていました。先生のもとに週に一回とか定期的に通えれば、いろいろたずねたり、情報交換もできるし、文化や伝統について学ぶこともできるのでしょうが。邦楽の世界は限られた特殊なものですから、その背景の文化や伝統がわからないでやっていると、時々非常にフラストレーションにおそわれることがあります。

 

*そうでしょう。日本人にとっても、特殊な世界で若い人は敬遠しているようですから。それでもオーストラリアで何回かリサイタルやコンサートをされましたね。他の邦楽器演奏者が少ないのでその面での苦労もおありですね。
他の演奏者をみつけるのが容易ではありません。ギターと共奏したこともあります。彼女は尺八の音や演奏を理解して、こちらに合わせてくれたので、とても良い演奏ができました。けれど、彼女はオランダ人で帰国してしまいました。以後、ギターとの演奏はしていません。邦楽的な世界を理解してくれる人でないと、一緒の演奏はなかなか難しいのです。琴の代わりにマンドリンとの共奏でコンサートをしたこともあります。これは好評でした。マンドリン演奏家の方々とはその後も良い関係ができて、来年はまた一緒にコンサートをする予定です。
*コンサートを開くのも大変なことですね。
経済的な面も含めて、準備が大変です。交渉などマネージメントも全て一人でしているので、苦労があります。コンサートの寸前まであれこれし過ぎて、その影響が舞台の演奏に出てしまうこともありました。それはふせがなければなりません。現在は16人のオーストラリア人に尺八を教えています。
*生徒さんは全員オーストラリア人ですか? 
ええ、老若男女いろいろですが、みなオーストラリア人です。コンサートに来てくれる人もほとんどがオーストラリア人ですが、去年の尺八フェスティバルには日本からも参加してくれました。日本の尺八奏者や尺八ファンのひとたちとも、とても良い関係が続いています。次回の尺八フェスティバルを生徒たちも楽しみにしていますし、かれらも協力してくれるでしょう。
*オーストラリアでの尺八演奏、いろいろご苦労がおありでしょうが、ぜひ続けてください。来年の尺八フェスティバルの成功をお祈りしています。今日はお忙しい中をお時間を頂き有難うございました。

インタビュー: スピアーズ洋子

2003年尺八公演スケジュール


1月末 (時間場所は未定)
with Kotoplayer  Watanabe Haruko 

5月31日 (時間、場所は未定)
6月1日 午後12時30分 St Michael's , 120 Collins Street, Melbourne (NE cnr Russell St)
Tajima Tadashi, head of Jikisho School with his Students, Andrew MacGregor, and Visiting koto shamisen players.  

8月30日 午後8時 Concert at Melba Hall, University of Melbourne
Miho Yamaji: koto, Shamisen
Andrew MacGregor: Shakuhachi
Concordia Mandolin and Guitar Ensemble
Women's Choir

詳細・問い合わせ連絡先 E-mail: info@japanworldmusic.com
                 www.japanworldmusic.com
(c) Yukari Shuppan
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