Yukari Shuppan
オーストラリア文化一般情報

2002年~2008年にユーカリのウェブサイトに掲載された記事を項目別に収録。
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11 スポーツ                     スピアーズ洋子

オーストラリア人は野外活動が大好きです。陸上、海上、山など、あらゆる場所で様々なポーツが盛んです。得意なのは水泳、ゴルフ、テニス、セーリング、クリケット、などなど。ここではスポーツにまつわるスラングや慣用句をとりあげます。

Australian Rules Football

オーストラリアで最も庶民的で人気のあるスポーツといえば、オーストラリアン・ルール・フットボールということになるでしょう。

歴史は古く130年以上も前にさかのぼります。ペリーが4隻の黒い軍艦を率いて浦賀に入港した1853年(寛永6年)の頃、メルボルンでは金鉱工夫たちがイギリスのラグビーとアイルランドのフットボールのルールをミックスしたスポーツを始めていました。それから5年後、1858年(安政5年)、メルボルンで最初のオーストラリアン・ルール・フットボールの正式な試合が行われました。8月7日のことで、これが記録に残された最初の公式試合ということです。メルボルンが発祥の地のオーストラリアン・ルール・フットボールはビクトリア州の人々に愛好され、1970年代からは全国的に広まりました。1990年代になってからは、日本をはじめ海外でもオーストラリア・ルール・フットボールのクラブができて、国際試合もするようになりました。

Footy

Australian Rules Football を略して短くした言い方。

Mark

Australian Rues Football の中でも特徴のあるルールで、選手が10メートル以上離れたところからキックされたボールをキャッチした場合、他の選手の動きをストップさせて、ゴールへキックすることが出来ます。

Australian Rues Football 以外の普通の使い方で、marking は目印をつけること。Ear-marking は羊の耳に印をつけること。それを仕事とする人はmarkers。羊毛がオーストラリアの主産業だった時代、 marking は数百、または千頭の単位でされたということです。


競馬

The Cup または Melbourne Cup 

オーストラリアで The Cup といえば、11月の第1火曜日に行われる Melbourne Cup のことを指します。競馬が国民的な行事の一つとして、大きな関心を呼ぶ国は、世界でも珍しいでしょう。

11月の第1火曜日は、メルボルン周辺では休日となるところが多く、着飾って競馬場へ行く、老若男女の姿が見られます。

オーストラリアの競馬の歴史は古く、植民地開拓とほぼ同時に始まっています。オーストラリアで公式記録に残る最初の競馬が行われたのは、1810年、ニューサウスウエールズ州はシドニーのハイドパークでした。オーストラリアン・ジョッキークラブが設立されたのが1842年。

ビクトリア州で初めて競馬が行われたのは1838年。現在の競馬場があるフレミントンでは、1840年にメルボルン・レースクラブによって最初の競馬か開催されました。競馬発祥の地、英国のイングリッシュ・ジョッキークラブのしきたりとルールに基づき、旗手は絹の服を着装しました。

メルボルンカップがスタートしたのはそれから21年後の1861年です。幾つかのレーシングクラブが出来ては消え、1864年に組織されたビクトリア・レーシングクラブが主要なクラブとして現在に引き継がれています。

メルボルンカップは第1次、第2次世界大戦中も休むことなく開催され、国を挙げての代表レースとなり、世界的に知られるようになりました。

他の娯楽やスポーツが増えて、一時は下火になりかけたこともある競馬ですが、女性を動員すること考え出した賢い人がいました。メルボルンカップの2日後にある雌馬の3才馬のレース、オークスはレディース・デーと呼ばれ、毎年この日は帽子やドレスの華やかなファッションの日となり、思い思いに装いを凝らした女性たちが加わって、カップデーをしのぐ最高の人出となります。

競馬に関する言葉

Sweeps

競馬場へ行ったり、馬券を買ったりしないで、職場の仲間や知り合いや友だちの間で賭けをすることを sweeps といいます。特にメルボルンカップの日は、知り合いが集ってパーティをしたり、バーベキューをしたりして、日頃全く競馬に興味がなくても、sweeps に加わって賭けをする人がたくさんいます。Sweeps をする時に、掛け金を集めたりして、めんどうをみることを running sweeps といいます。

Punt

競馬などで賭けをする。Punter は賭けをする人。

Bookmakers (または略して bookies または books )

プロの賭け屋、賭けを仕切る人。

Straight from the horse’s mouth

レースでどの馬が勝つか馬の口から直接聞いた、これ以上確かなことはない、ということで、ゴッシップなどを当事者から直接得たホットで確かな情報。

Monty または sure cop

優勝すると予想されている馬。

Horses for course

そのコースに合った馬を走らせる。転じて日常会話では適材適所。

A mudlark

ぬかるみ、雨などのコンディションに強い。

Go for the doctor

馬にムチを当ててスピードを上げること。転じて行動を開始する。アクションを取る。

Salute the judge

ゴールに入る。

When the numbers are up

レース結果の公式発表になぞらえて問題が解決した時、ものごとが決定した時に使う。

London to a brick on

ロンドンのような大都市と小さなレンガ1つを賭けにする、ということで賭けに対して絶対大丈夫と100%の確信をもつこと。

Skinner for the books または boil-over

予想外の結果におわること。


クリケット

クリケットは古い歴史のあるゲームで、250年から300年前の英国が発祥の地です。現在では英国の他に旧英国連邦(オーストラリア、ニュージランド、南アフリカ、インド、パキスタン、西インド諸島など)の国々で盛んなスポーツです。国際試合も定期的に行われ、オーストラリアでは冬はフットボール、夏はクリケットが庶民の人気を呼んでいます。

試合形態を簡単に説明すると、試合はピッチと呼ばれる長方形の場所を中心に行われます。ピッチの両端にはスタンプスと呼ばれる3本の棒が立てられ、その上にバイルスという小さな横木が乗っていて、これをウイケットといいます。両側のウイケットを守るようにバットマン(野球ではバッターにあたる。)が立ち、ボーラー(野球ではピッチャーにあたる。)はバイルスを落とすためにスタンプスめがけてボールを投げますが、野球と違って地面で一度バウンドさせます。1チームはキャプテンを含む11人で、野球のように攻撃と守備にわかれ、スコアーを競います。ルールの詳細を説明するのは大変な上、関心のない人には退屈なだけなので、ここではこのくらいにしておきます。

Stumps

クリケットの試合が終わるとアンパイアが stumps を引き抜いて退場します。通常クリケットが終わるのは夕方6時頃だったので、そこから1日の試合の終わり、物事の終わり、閉会、閉店などを意味するようになりました。

“I didn’t leave the pub until Stumps.” と言うと、閉店まで飲んでいた。ということになります。ビクトリア州では1960年代の初めまで、ホテル(パブ)は6時が閉店でした。クリケットの試合が終わって stumps が引き抜かれるのも6時頃、飲むところが閉まるのも6時頃で、その頃のビクトリア州の男たちにとって6時というのは、かなりな意味があったようです。

The Ashes

Ashes はただの灰のことですが、オーストラリアとイギリスで冠詞をつけてThe Ashes というと、灰は灰でも特別の意味になります。

The Ashes はオーストラリア対英国のクリケットの試合とそのトロフィーのことを指します。

由来は1882年に遡ります。その年イギリスで行われた植民地オーストラリア対イギリスの試合で、オーストラリアはひどい出足だったにもかかわらず、じりじりと追い上げ、一進一退の末、イギリスを打ち負かしてしまいました。観客の一人は過度の緊張と興奮のため心臓麻痺で死亡。他の一人は試合中に傘の柄を噛み砕いていた、という記録が残っているほどドラマチックな試合でした。クリケットの本場イギリスで、遠征してきた植民地のチームに負かされた英国紳士の気持ちは、柔道でオランダのヘーシングに初めてタイトルを奪われた時の、日本人の気持ちに勝るとも劣らなかったことでしょう。

後日、イギリスの The Sporting Times に次のような死亡広告が出ました。

ENGLISH CRIKET,

which died at the oval on 29th August 1882, deeply lamented by a large circle of friends and acquaintances. – The body will be cremated and the ashes taken to Australia.

(イギリスのクリケットは1882年8月29日に競技場にて死亡。大勢の友人知人たちの深い哀悼の意が捧げられた。遺体は火葬され灰はオーストラリアに持ち去られる。)

この広告は一大センセーションを巻き起こし、以来トロフィーには、その時使われたバットとスタンプスの灰が入っていると信じられ、The Ashes と呼ばれるようになりました。

両国の試合はAshes series と呼ばれ、オーストラリアとイギリスで18ヶ月おきの夏季に交互に行われています。その遠征は Ashes Tour と呼ばれます。1882年の試合は歴史的なものでしたが、むしろ試合そのものよりも、その広告によって有名になり、歴史が創られたともいえるでしょう。

参考資料:England versus Australia   by David Frith

Good innings

  Innings は野球でいうと守備にたいする攻撃に当たります。そのスコアが上がってくると、高齢者の年齢と同じようになるので、 innings のスコアにかけて年齢を表すことがあります。例えば82歳で元気のいい人が年を聞かれて、”82, not out” と答えたりします。「82、まだ頑張っているよ」という意味になります。また90歳を越えた人には “98, well, he had a good innings” 「彼は長生きをしてよくやってますね」という意味になり、年齢とスコアをかけています。

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